月ヶ瀬健康茶園

文明語る

新茶案内2016年

2016 年 新茶のご案内
いつも当園のお茶をご愛飲いただきありがとうございます。 今冬、月ヶ瀬では厳しく冷え込んだ期間が短く、例年より2週間ほど早く「月ヶ瀬梅林」 の梅が満開となりました。梅の開花は“地温”に桜の開花は“気温”に関係しているそうで、 今冬は例年に比べ地温が下がらなかったということなのだと思います。茶園では、春の訪れ とともに休眠から覚めた芽がゆっくりと膨らみ育ち始めています。これから晩霜 ばんそう や 雹 ひょう など、 気が抜けない日々となりますが、この調子で順調に生育してくれることを願っています。
一年の最初に収穫する一番摘みの新芽は、秋から冬のあいだ、茶樹の根や茎にじっくりと 蓄えていた栄養が少しずつ新芽を芽吹かせていきます。そして茶の新芽が萌芽してからも、 朝は5℃近くまで下がり、日中は約20℃まで上がる奈良・月ヶ瀬の山間地特有の朝昼のリ ズムを繰り返すなか、ゆっくりとゆっくりと生長することで、重みのあるひき締まった新芽 に育ちます。茶は古来、薬としてその歴史が始まったとされています。夏は「葉」を、秋は 「実」を、冬は「根」を、そして春には「芽」を…。というように、この時期にタケノコや ワラビを食するように、新茶の時期に茶の新芽の勢いを飲むことは、一年を元気で過ごすた めにも大切なことだと考えています。これから緊張感高まる新茶のシーズン、チーム岩田一 同が力を合わせ、仕上がった新茶を出来る限り早くお届けできるよう、収穫・製茶・袋詰め・ 箱詰めと精一杯頑張ります。

○茶園のこと

当茶園では 1984 年から農薬も化学肥料も一切使わない有機栽培のお茶づくりを続けて きました。そして 2011 年より全圃場において動物性由来の肥料を使わず、地域に育つ自 然の草木を茶園に施すことを主体とした栽培に切り替えました。その後、少しずつ茶園に変 化が生じ始めたことを、昨年の新茶案内で紹介させて頂きました。 継続していく中で、茶園の一部分ではありますが、茶樹の生育が困難になる様子が見られ ました。これらの場所は、本来茶樹が自らの力で育つことができなかった茶園環境であり、 これまでは気が付かなかった様子が、はっきり見えてきたのではないかと考えられました。 それらの茶樹の環境を観察すると、同じ茶園内でも、ちょっとした斜面の角度の違いや大木 の影響等で日照時間が短くなる箇所で、太陽の光が他より少ない場所であることがわかって きました。そこで、対策として茶園に陽が当たるよう日陰の原因となっている大木の枝を切 り、また僅かに凹(くぼ)んだ所は、凹みに停滞していると考えられる水やガスが抜けるよう 簡単な土木作業をすることで茶樹の根が健全に育つなど、環境を改善していきます。 茶農家として、絶えず観察力を高めながら、茶樹が自らの力で育つ環境となるよう、それ ぞれの茶園ごと、場所ごとに適切な働きかけをしていくことが、健康で美味しいお茶づくり に繋がっていくのだと、確信を持てるようになってきました。 一方で、生育の調子が良い茶園では、地域の山間の中に 34 か所(2016 年4月現在)に点 在する茶園毎に「土質」「方角」「標高」「傾斜度」「かたち」などの立地条件を含む『地勢(テ ロワール)』の違いに、茶樹が敏感に反応しその違いがはっきりと見えてきました。中でも、 有機栽培・自然栽培を開始してから年数が経過している茶園、さらに樹齢が高い茶園では、 奈良・月ヶ瀬という地域ならではの特徴が明瞭に現れてきたと思います。茶園ごとの「地勢」 の特徴が、茶園ごとに仕上がるお茶に現れ始めてきたと感じます。
○地勢の感じられるお茶のこと

茶樹の体質が変化してきたことで、お届けさせて頂いているお茶の味にも、特徴が表れ 始めてきています。 一つ目に感じることは、旨味成分(アミノ酸)が「素朴」で「すっきり」として、雑味が 少なくなってきたことです。以前は魚粕等の有機質肥料(窒素成分)を茶園に入れることで 旨味成分(アミノ酸)を向上させることが重要だと考えていましたが、本来、茶樹は、霧が 多く発生し、日照穏やかな山間 やまあい の環境であれば、茶樹自体が自然の中で天然のアミノ酸(旨 味成分)を生成することができる植物です。奈良・月ヶ瀬ならではの気候・風土を活かす栽 培方法に切り替えたことで、自然の中で茶樹自体が生成した天然由来のアミノ酸が含まれる ことになったのだと考えています。 二つ目に感じることは、甘い香味が向上しているということです。紅茶に加工する茶園に は香味を発揚させるため 2006 年から動物性の肥料を入れないことに取り組んできました。 煎茶においても同様で、ほうじ番茶においても同様の傾向が見受けられました。 実際、茶園ごとに比べると、これらの甘い香味は、①ススキ・落ち葉・草木に含まれる炭 素分やミネラルが茶園の土壌に豊富に含まれていること。②吸い上げることのできる根が、 しっかりと地下に伸びていること。③太陽の光が十分に当たること。この 3 つの条件がす べてそろってこそ茶の味に現れてくるということが分かりました。
○茶の味のこと

新たな取組みを進める中、お茶の味にも変化が現れ始めた 2015 年のお茶でしたが、作 年は 2014 年に比べ、多くの方がたくさんの量のお茶を飲んでくださっていました。当園 のお茶を永年飲み続けて下さっている皆様方にも、ご理解をいただけたと実感しております。 ありがとうございました。毎日飽きずに食べるお米のように、お茶もまた嗜好品という要素 だけでなく、日常に飽きることなく飲み続けることができるような美味しさも大切だと思い ます。これからもひきつづき、お茶そのものが持つ純粋で素朴な風味が素直に味に現れるよ う、「飲めば飲むほど体に馴染んでいくような美味しさ」を追究していきたいと考えており ます。よろしくお願いします。

 ○地勢「テロワール」を活かすお茶づくりのこと ➡写真はすべて 2015 年秋に撮影しました。

茶園百景.

撮影 五味明憲

○地勢「テロワール」を活かすお茶づくりのこと

奈良・月ヶ瀬で、自然栽培・有機栽培のお茶づくりを継続する中で、「その土地の地勢(テ ロワール)をお茶で表現すること」が可能であることがはっきりとしてきました。具体的に は、同じ品種の茶樹であっても茶園毎に「香りが高いもの」「味にコクがあるもの」「何煎も 飲めるもの」など特徴が多種多様になってきました。 お茶には「合組(ブレンド)」という工程があり、これは製茶したお茶を混ぜ合わせるこ とで、お互いの良さを持ち合わせ、かつ持っていなかった要素をさらに高めるお茶をつくる ことが出来るというものです。例えば「香りが高い」「味わいがある」「鮮やかな色」等とい った要素を、同じ産地や茶園、品種から収穫したお茶が持ち合わせていることは少ないので すが、当茶園では品種の違い以外にも茶園毎に異なる地勢で育ったお茶どうしを「合組」す ることで、バランスがとれた深みのある香味を感じることができるようなお茶に仕上げるこ とも可能となってきました。地勢を飲み分ける楽しみ、合わせて飲む安定感、それぞれの個 性を生かしてお届けできるよう取り組んでいきたいと考えています。
農産物でありながら、急須と湯だけで飲むことが出来るお茶だからこそ、奈良・月ヶ瀬の 「地勢」が素直にお茶に現れることを意識しながら、その年の気候・天候の特徴を、ダイレ クトにお伝え出来るように今年も取り組みます。

2016 年 4 月  月ヶ瀬健康茶園 代表 岩田文明