月ヶ瀬健康茶園

文明語る

中国雲南省滞在レポート2015

概要

2015年3月29日~4月4日まで、自然栽培茶・野生茶の山を訪ねて、中国雲南省臨滄(りんそう)という地域に行きました。今回、5年ほど前からお付き合いのある中国茶を中心に販売するHOJOの北城さんが仕事のために滞在中のところ同行させて頂きました。行った所は雲南省の省都である昆明から、飛行機で約1時間飛び、そこからローカルなバスで5時間、車で2時間の所で、ミャンマーとの国境まで50㎞ぐらいという村でした。

目的

中国雲南省は米やお茶の原産地とも言われるところですが、農業の近代化によって、化学肥料を入れて管理を行う茶園が年々増え、肥料を全く使わずに昔ながらにお茶をつくっている地域は、このような奥地に僅かに残っている状況で、近代化されるまでに(今年のうちに)、そこに行くことに大きな意義がありました。

報告

いよいよお茶をつくっている地域に着いたのですが、最初、いったいどこに茶樹があるのか、まったく分かりませんでした。しかし獣道を潜るように草木が茂っている野山に入って行って、初めて茶樹が育っているのが分かりました。分からなかった理由は、茶樹は植えられてはいるものの、自然の草や樹木と一緒に育ち、すべてが同化しているように見えるため、全く見分けがつかなかったからでした。そこに育つ茶の木は、管理された茶園の茶の木とはあまりにも姿が異なるため衝撃的を受けましたが、新芽をかじると、それはまさに樹木の山菜でした。この茶山の新芽でつくられた、プーアール生茶や紅茶を飲ませて戴きましたが、熱湯にお茶を入れると、水に魔法をかけたように、透明度が高く素朴でありながら風味が明瞭で雑味のない美味しいお茶へと変化しました。

今回のような、ぼうぼうに生えている草や木をかき分けて、道もない斜面を、数時間、歩いて、這って、滑って、飛び降りて回らなければ行けないような茶園まわりは、生まれて初めての経験でした。そこは自分が単に農業生産者という観点からみるだけだと雑草が生えた管理していない茶山だと思っても仕方がないほどの所ですが、自分達も生態系の一部なのだという観点からみると「こういうことだったのか」と納得でき、それは違いというよりも「根底から違う」ことなのだと理解出来ました。

衝撃的だった自然の茶樹の姿

衝撃的だった自然の茶樹の姿

自然と同化している完全な自然栽培の茶山

自然と同化している完全な自然栽培の茶山

自然の草木とともに、育っている茶樹の新芽

自然の草木とともに、育っている茶樹の新芽

 

今回、帰国した時に「味噌汁を食べたい」という気持ちにならないほど、雲南省の食事は自分の体に合う美味しさでした。

雲南省のレストランでは、メニュー表をみて注文するのではなく、ショーケースのような冷蔵庫に入っている野菜や山菜、半解体の鶏肉、水槽で泳いでいる淡水魚などの食材を見ながら、食べたい食材を注文するのが一般的でした。そして、注文した食材で、スープや炒め物、鍋などを調理してくれます。大切なポイントとして雲南省では、その時期に入手できる食材を基に、注文を受けて、調理するメニューを決めていくということです。

地産地消の旬の食材を、その人のために調理して下さる、そこに雲南省のレストランの食事の美味しさがあるのだと思います。あらかじめメニューが決まっていて、そのメニューに基づいて必要な食材を年中揃えている一般的な日本のレストランとはスタイルが異なると思いました。その地域で入手できる自然の恵みを戴くスタイルがあってこそ、その地域で自然栽培型の農業が成立つのだと再確認することができました。

また雲南省の茶農家を訪問して自然栽培型のお茶が出された時、「くるみ」や「ひまわりの種」など、そこの農家で作られているお茶請けが出され、お茶との愛称は抜群でした。さらには歓迎のため庭で飼っていた豚や鶏を解体したり、茶園の周辺で育つドクダミやワラビといった日常に食べている山菜で、料理をつくって下さったことが、心と体に深く残りました。

このようなことから自然栽培型のお茶が維持されることと、その地域で暮らす人々の食生活のスタイルとは、切っても切れない関係があるのだと思いました。このバランスが崩れることが自然栽培の循環型社会が崩壊することにもなり、言い換えれば、人間も自然のリズムの中の一員であることを意識した暮らし(食生活)を構築していかなければ理想とする自然栽培型の農業(お茶づくり)は成立しないということなのだと思います。今後、点(人)と点(人)が結ばれて線となり、ネットワークを構築し、面(地域)を育てていくような、そんなきっかけとなるようなお茶づくりに進展できるよう取組んでいくことが大事だと感じました。

訪問した農家で戴いた、プーアル生茶、豚の皮

訪問した農家で戴いた、プーアル生茶、豚の皮

訪問した茶農家で戴いた、プーアール生茶、くるみ、ひまわりの種

訪問した茶農家で戴いた、プーアール生茶、くるみ、ひまわりの種

各種料理

各種料理

冷蔵庫ショーケースの中の食材

冷蔵庫ショーケースの中の食材

 

学んだこと

4年前から当茶園では地域の自然循環型のお茶づくりに取組んできましたが、その理想は想像(イメージ)でしかありませんでした。しかし今回雲南省の自然の中で育っている茶の木の姿に出会い、日本で人間が管理している一般的な茶園の茶の木とは全く異なる姿であることを、この目でしっかりと認識することができました。そして農業の近代化により、雲南省で化学肥料の投入が始まった茶山、そして剪定による管理も始まった茶園を段階的にみることができたので、「自然型の茶山」から「管理型の茶園」に変化していくその過程を観察することができました。ちょうど、当茶園では4年前から地域の自然循環型の栽培に切替えたことで茶樹の生育に変化が生じ始めていたのですが、それは「管理型茶園」から「自然型茶園」に変化している過程であることも、確認できました。

いっぽう自然環境の中で管理をせずに自然栽培を展開した場合、茶山は山に還ります。だからこそ農業の営みによる適度な管理があってこそ、茶山が維持されていくことになります。そこが「野性」と「栽培」の違いであり、人間が意識をもった管理方法を展開していく事が大切であるのだと思いました。

今回、「自然型の茶山」⇒「管理型の茶園」に変化することと、「管理型の茶園」⇒「自然型の茶園」に変化することは違うのだと思いました。近代化されてしまった時代に自然型の栽培を展開していくには、人間が明確な意識を持ちながら取組みを継続することが必要になると思うからです。言い換えれば、自然型農業は昔に還る農業ではないのだと考えます。自然型農業を営む人間自らが、「いつの時代になっても変わらない大切なこと」を絶えず見極めていく力を高めていくことが大切なのだと思います。

無題33

2011年にダージリン、2013年にスリランカに行ったときは技術的な学びの要素が多かったのですが、今回は哲学的・理念的な要素が強く、雲南省の茶山をはじめ、地域の人や食そして自然に携わることで、奈良・月ヶ瀬で新たに取組み始めた農業のスタイルと繋がる要素がたくさんあることに気づきました。そこで、今後これまでの有機栽培茶に加え、理念(目的)と栽培基準を明確に表現した「月ヶ瀬健康茶園の自然栽培茶」を新たなアイテムとしてラインナップすることに決めました。

2015年4月16日作成 月ヶ瀬健康茶園 岩田文明