月ヶ瀬健康茶園

文明語る

新茶案内2012

2011年新茶の収穫

2011年新茶の収穫

いつもご愛飲いただきありがとうございます。

新茶のご案内が遅れ、申し訳ございません。ここ数年収穫時期の見込みが難しい状況が続いております。今年は春の訪れが遅く、昨年よりさらに1週間程遅れて新芽が膨らみ始めました。4月後半の暖かさで、一気に新芽が生長してきました。これから霜や雹の影響など、気が抜けない状況となりますが、今のところ雨も多く、この調子で順調に生育してくれることを期待しています。

一年の最初に収穫する一番茶は、秋から冬にかけて、根や茎にじっくりと蓄えていた土や日光や肥料の栄養が少しずつ新芽を芽吹かせていきます。そして奈良・月ヶ瀬の、朝夕の寒暖差(5~20℃)の大きい、山間地特有の気候のなかでゆっくりとゆっくりと生長することで、重みのあるひき締まった新芽となります。茶は古来、薬としてその歴史が始まったとされています。夏は「葉」を、秋は「実」を、冬は「根」を、そして春には「芽」を、というように、新茶の時期に新芽の勢いを飲むことは一年を元気で過ごすためにも大切なことだと考えています。

昨年4月、新たな若いスタッフを2名迎え、チーム岩田を結成しました。月ヶ瀬健康茶園での仕事をライフワーク(生き方としての仕事)と考え、異なる世代が共に力を合わせ、日々、仕事に励んでいます。これから緊張感高まる新茶のシーズン、チーム岩田一同力を合わせ、つくりたての新茶をお届けできるよう、収穫・製茶、袋詰め・箱詰めと、精一杯頑張ります。今季もどうぞよろしくお願い致します。

 

大切なお願いふたつ

これからのお茶づくりのために栽培方針を変更したいと思います。

当茶園は、1984年より農薬も化学肥料も一切使用しないお茶づくりを続けてきました。そしてこの十数年、紅茶を栽培加工してきた中で、茶葉本来の純粋な香気と体に浸みわたるような自然な味は、動物性由来の肥料を畑に入れないほうが良いということが分かってきました。2006年から一部の畑で、植物性由来の肥料と、感覚だけでなく土壌分析に基づいて畑のミネラルの状況を把握し、天然の資材を入れる栽培を実践しました。そのなかで、これまで以上の安心と安全そして健康を考えたとき、今の奈良・月ヶ瀬の気候に適したお茶を育てること、ミネラルが豊富な土壌で茶樹をゆっくりと元気な芽を育てていくことがとても大切なことなのだと感じました。一方でこれまで当たり前と考えてきた年4回の収穫を、茶樹を健康に保つために状態によっては年2回に減らす必要もあることが分かり、実質の収穫量が畑によっては20%から最大40%に減ることも分かりました。

これまで通り、お茶をお届けする責任を考えると、仕事量を増やし、畑を広げる必要があります。その作業量を考えるとやりこなせるのかと躊躇しましたが、これからのお茶づくりを続けていくためにとても大切なことなので、対策を考え準備し、2010年には畑を増やし、効率化を進め、共にがんばってくれる人と出会いました。2015年までにはすべての畑の栽培方針の変更をと考えておりました。

しかしながら、昨年3月の震災後、放射能の問題に向き合っていく中で、“安心・安全”を一番に考えると栽培方針の早急な変更が重要であると判断し、急遽2011年6月、すべての茶園に動物由来のものは一切入れないことを決めました。(6月までの投入物はすべて震災前に準備したものです。)今後畑には入れるものをシンプルにし、自分たちで作り・集め、地域でやれる方法をさらに模索していきます。ご案内が後になりましたが、ご理解いただけますようよろしくお願いいたします。

 

茶畑のこと

体に浸みこむお茶づくりのために)

奈良・月ヶ瀬は一番茶の収穫時期が毎年5月中~下旬頃となりますが、これは国内の茶産地のなかでももっとも遅い産地のひとつです。近年さらに春の訪れが遅くなり、朝夕寒暖差のある内陸性の気候のもと、引締まった新芽がゆっくりと生長します。さらにミネラルが豊富な粘質土壌の畑も多く、地力のあるこれらの土壌は、肥料の窒素成分に頼らなくても、元気に植物が生長することができる土だと考えています。このような自然環境だからこそ、「ゆっくりとした循環のなかで、ゆっくりと生長する」という地域循環型のお茶づくりが大切だと考えています。ゆっくりと新芽が育つと、茶樹が体づくりをしながら育つことができるので病気や害虫に強い芽が育ちます。そして、体づくりができると、大切なミネラルをたっぷりと含んだお茶になり、さらに、その新芽でつくった茶は、長期保存することで(熟成)品質が向上することも期待できます。

 

テーマを持ったお茶づくり

丘陵地である月ヶ瀬の山々は、変化に富む地形のため、自家茶園は、20か所以上に点在しています。ひとつひとつの畑で傾斜度、土質、方角、効率具合、そして茶の品種も異なります。むかしながらの山なりの茶畑や国営事業の農地造成でできた団地の茶畑もあります。そんな変化に富む条件を活かし、ひとつひとつの茶園ごとに異なるテーマをもち、多品種を多品目に生産し、少量加工にも取り組んできました。このように茶園ごとに異なるテーマを持ちながら茶づくりに取り組む中で、茶園に施す有機肥料の種類によって、お茶の味が違ってくる事も分かってきました。

 

木には木を還す

植物の根は有機物そのものを根から吸収するといわれます。素朴で自然な風味の体に馴染んでいくような美味しさのあるお茶をつくるために、自然の草木を還していくことが、バランスのとれた美味しいお茶づくりにとって大切であると考えるようになりました。収穫し持出す茶葉と茎の代わりに、草木などを自分たちの手で集め、畑に入れ茶樹に還していくことが大切であると思います。

冬季、当園では原木椎茸の栽培を行っていますが、2005年に植菌した椎茸原木から、その廃原木を堆肥化する準備を進めてきました。毎年、地域のクヌギ・ナラ林を伐採し、3000~4000本の原木に植菌しています。椎茸の原木になるクヌギ・ナラ林は20~30年ごとに伐採することで林が再生され、地域原木での椎茸栽培は山の循環に添った山の仕事になります。植菌後、2~3年の間、椎茸の収穫のピークを終えた原木は、その後、山で少しずつ収穫をしながら落ち葉とともに原木は朽ちていきます。このように椎茸原木は6~8年かけて、ゆっくりと椎茸山で堆肥になります。椎茸原木を茶畑に還そうと思ったきっかけのひとつに、朽ちた原木のある椎茸山で群生している山イチゴと、他の場所で群生している山いちごとを食べ比べた時、椎茸山の山いちごの味は格別でした。これこそ自然の甘味だと思いました。茶は樹木のため、すぐに変化するものではありませんが、2012年1月から、朽ちた原木を茶畑に還し始めました。

 

月ヶ瀬ならではお茶とは

ひとくくりにされがちな煎茶も、他の農産物と同様、本来は地域の独自の味というものがあるのではないかと考えておりました。地域の自然を活かしたお茶づくりを実践する中で、この方法こそが月ヶ瀬ならではの特徴を持ったお茶をつくっていくことになるのではないかと感じています。

この方法で一定の生産量を確保するには時間がかかり、知恵や労働力も必要になります。共に考え、大切に思っていることに共感し労力を惜しまず取組んでくれるスタッフがいてこそお茶が出来上がります。そして、理解し飲み続けて下さる皆さまのおかげで、全力でお茶づくりに取り組めるのです。

チーム岩田の結成

チーム岩田の結成

 

これからのこと

耕作放棄の畑をつくること(在来の畑を継続すること)

近年月ヶ瀬では、作業な困難な傾斜地の茶園の荒廃が進んでいます。その昔、開墾し長い年月をかけて育てられた茶畑が放棄され、子供の頃からあった茶畑がなくなるということは、胸が痛むことです。一度荒れてしまった茶畑は簡単に元に戻りません。特に、選抜された種から育てた実生の在来の畑は、数十年前にこの地域で育った品種の遺伝子を持つ品種のため、新しい品種が栽培され交配の可能性のある現在では同系茶畑の再生は不可能です。種から育った茶樹は、一般的な挿し木の苗から育ったものに比べ、根が地中深くまで入り、樹勢が強く、長寿で野性的な個性があります。耕作放棄後、勢いよくどんどん伸びる茶樹の様子を見ると、元来、そんな茶樹のエネルギーを分けてもらうことこそが、お茶を飲むことの原点ではないかと思うようになりました。

この傾斜のきつい勢いのある在来の畑を、できる限り受け継ぎ継続していきたいと考えています。そしてその力を活かせるよう収穫回数を減らし、呑むと元気になるようなお茶づくりを目指します。山間地だからこそできる、新しい栽培管理方法を模索します。これらの畑は栽培を始めて3年以上経過しないと、有機JASを取得ができませんが、飲んでいただけるような状況になりましたらまたご案内させていただきます。

 

萱場をつくること

有機栽培を始めて以来、地域に生える萱や笹等を毎年刈り込んで、茶畑の畝間に敷き詰めてきました。これまでは集めるだけの作業でしたが、ある程度管理された土地であるほうが集める作業の効率もよく、これから増える畑の量を確保するという点でもよいのではと思っています。

新たに地域内の耕作放棄された田畑で萱や笹を茂らせていくことを模索しています。

月ヶ瀬は、畑を耕作放棄すると笹が勢いづき畑を覆ってしまいます。そんな耕作放棄地を萱場として管理し、草を茂らせ、刈込んだ草を堆肥化して茶畑に還していきます。

また、萱場が当園の“畑”であることは責任を持って当たれる点でこれから重要になっていくのではとも感じています。

 

放射能について

昨年3月の原発事故以後、放射能とは何かを学ぶことから始めました。早く理解し、対策を考える出来事であると考えたからです。

安全性に関して、農薬は少量でも駄目だと考えている私たちにとって、放射能の基準値以下なら安全ということは、納得し難くわからないものでした。

私たちできることは、「わからないものは持ち込まないこと」でした。わからないことを前提に「畑に入れるものについてはすべて測ろう」ということを決めました。

茶畑ごとに投入する肥料等の資材はすべて専門の機関で、検出限界値1ベクレルで検査し、検出されなかったことを確認したうえで茶畑に投入することにしました。地域の萱や朽ちた椎茸原木の腐葉土など、地域のものもすべて検査に出しました。今年からつくり始めた植物由来の液肥は各素材ではなく仕上がったものを計測することにしました。一方で魚粕については海の放射能汚染の実態が分からず、また検査項目も異なることから2011年5月に投入やめました。

放射能の問題はクリアーにシンプルにすることで大切であると考えます。椎茸の原木もこれまでどおり、地域で伐採していきます。

当園では、現在の日本全国の放射能汚染問題を深刻に受け止めています。

自分の息子達をはじめ、子供が安心して飲めるお茶である事が大切だと考えています。原発事故が一日も早く終息し、皆が元気いっぱい暮らし続ける世の中であるよう願うばかりです。

 

さいごに(自分が考えること)

2011年3月の原発事故以来、茶と原木椎茸は放射能汚染問題でよく取り上げられた農産物でした。これまで放射能の知識はなかったため、あちこちの勉強会に参加しました。消費者に対しての情報がたくさんある中、生産者の情報は少なく、一番知りたい生長の際のメカニズムについても情報を集めるのは困難でした。全国の有機の生産者同士で情報を共有し、いろいろな意見を聞き、知るために検査し、自分たちなりに知識を深め考えてきました。

初茶は新芽の部位だけを収穫し製茶します。農水省の発表によると新芽の部位だけを収穫し、製茶して乾燥させると重量が5分の1になるため、お茶の放射能の数値は乾燥前の新芽の5倍以上の数値としてでてきます。それを熱水で抽出して飲む状態になると50分の1になります。昨年、静岡の有機生産者が実際に測ってみたところ同様の傾向で、抽出については50~70分の1となりました。

“健康”というのは当園の長年のポリシーです。そんな中で今回の放射能の問題でお茶や椎茸がメディアで問題視され、椎茸やお茶は敬遠されがちであることがとても気になりました。

調べていけば調べるほど、放射能に打ち勝つため、あるいは被ばくによる健康被害を予防的に抑えるために重要な栄養素は茶や椎茸に多く含むことにいきつきました。

自分たちがその成分の効果を科学的に立証することはできませんが、昔から健康と縁の多かったお茶や椎茸を、大なり小なり影響の考えられる日本で、飲まない・食べないでいることはどうなのだろうと思いました。

やはり今の日本でお茶を飲み椎茸を食べることは大切なことだと思います。

今の日本で自分達にできること、それは、栽培で放射能に汚染されない出来る限りの管理と、自然のバランスを考えた圃場管理、そして健康な茶樹を育て、力のあるお茶をつくることをはっきりと意識した、今の茶栽培の方法だと自分は思います。それは、これからの時代に奈良・月ヶ瀬の有機茶農家である自分にもできることではないかと思います。

皆が元気いっぱい暮らし続けることができるような農業を大切にしていきたいと思います。

2012年4月 月ヶ瀬健康茶園 岩田 文明