月ヶ瀬健康茶園

文明語る

紅茶班通信No.08(2012年12月)

第8号です。紅茶に取り組み始めて12年目となる2012年のシーズンを終えました。

緑茶品種と紅茶品種の相反する特徴の違い

我が家では2001年から緑茶品種(やぶきた、在来、さやまかおり、さやまみどり等)から収穫時期別に「春摘み紅茶」と「夏摘み紅茶」をつくっています。そして2009年頃から紅茶品種から品種別に「べにふうき紅茶」「べにひかり紅茶」「べにほまれ紅茶」をつくり始めています。

元来、カテキンを多く含まず発酵力が弱いとされている緑茶品種は、比較的、若い芽を収穫することで、その品種の特徴を活かせた紅茶ができる傾向にありました。若い新芽は、繊維成分が少なく、酵素活性が強く発酵が進みやすく、また湯に溶ける様々な成分を豊富に含んでいることから味も複雑になり、上品で美味しく感じるためです。

しかし紅茶品種の場合、「よい紅茶をつくろう」と意気込んで若い芽を収穫しても、味が強すぎて苦渋味があり、すっきりとしない香味になる傾向がありました。なぜだろうと思っていたのですが、カテキンを多く含み発酵力が強い紅茶品種の特徴を活かすには、もう少し成熟した新芽を収穫したほうが良いことが分かってきました。台湾や中国で香りを重視した烏龍茶や紅茶をつくる時は、「開面葉」と呼ばれる芯(先)芽が開いてからの芽を収穫するそうです。

特徴ある香りを発揚することができる紅茶品種は、芽が成熟しても発酵する力はあります。来年は、開面葉に相当する状態まで待ち、これまでより浅い位置で茶刈機の刃を入れて収穫する方法も行います。

茶園から袋詰めまで一貫した環境だからこそ、「茶樹の品種」⇒「栽培」「収穫適期」「製茶」「貯蔵」「ブレンド」等、様々な条件を最適化できるような紅茶づくりを進めていきたいです。


紅茶づくりからみえてきた、新たなお茶づくり

これまで緑茶品種(とくに一番茶)の茶葉で紅茶を作ってきたなかで、[第一工程]萎凋(萎らせる)までは紅茶品種に劣らず高貴な萎凋香が発揚してきました。しかし[第二工程]揉捻(揉んで)[第三工程]発酵する段階になると、紅茶品種なら赤銅色に変化して特徴ある香りが発揚するのに対して、緑茶品種では緑色が黄緑~茶褐色に変化して甘い香りが発揚するまでが精一杯という傾向がありました。緑茶品種からつくる紅茶は、和風味としての役割を果たす大切な紅茶である事は変わりないのですが、この萎凋香を活かすお茶づくりが他にもあるのではないかと以前から考えていました。

いっぽうで有機栽培の煎茶をつくる中で、旨味(アミノ酸)の強さを追究するより、甘みや香りを追究したほうがその栽培方法に適していると以前から考えていました。煎茶づくりの一般的なお話になりますが、窒素成分を多く含む肥料をたくさん茶園に入れることで、新芽の生長を早め収穫量が増加し、さらに新芽がメタボな状態になることでアミノ酸(旨味)成分が増加します。同時に体づくりが追いつかないため病害虫に侵されやすく一般では殺菌剤や農薬を使用しなければなりません。我が家では、せっかく農薬も化学肥料も一切使用しない有機栽培をしているのに、わざわざ殺菌剤や殺虫剤等の農薬を使ったほうが有利になるような方向性を追究することより、有機栽培だからこそできる方向性を追究したほうが自然の摂理に叶っていると感じてきたからです。これまでの紅茶づくりを通して、ミネラルや炭素率の高い草木や植物由来の肥料を入れ、体づくりをしながらゆっくりと育った新芽から、甘く香り良い紅茶ができてきました。つまりこれをヒントに、紅茶に適した栽培から萎凋工程まで経た新芽を、緑茶に加工して、萎凋香の緑茶をつくることが、甘みと香りを活かす新たなお茶づくりではないかと思うようになりました。蒸して煎茶をつくるのか、釜で殺青して釜炒り緑茶あるいは包種茶をつくるのが良いのか、いろいろと試してみる必要があります。

いっぽうで産地の環境から考えた場合、奈良・月ヶ瀬は国内で一番茶の収穫時期がもっとも遅い産地のひとつですが、言い換えれば茶樹の休眠期間が長く、耐冬性を高めるため茶樹の含糖率が高くなる事が考えられます。昔から、寒い冬の年は、翌春、甘いお茶が出来るとも言われるのもその所以です。さらに山間地のため、朝夕の寒暖差も大きく斜面に茶畑が広がることから、香りよいお茶をつくることができる環境と言えます。

そこで今年の5月、煎茶の機械に1回分だけ入る量で、萎凋香煎茶の試作を次のように行いました。

  1. 収穫(※紅茶に向いた栽培をした在来種の一番茶を茶刈機で収穫しました)
  2. 萎凋  太陽の光にも少し当てながら、ゆっくりと撹拌しながら約6時間、紅茶と同じように重量が約30~40%減るまで水分を抜いて萎らせました。果物のような香りが強く発揚して、とても良い香りがしました。
    SANYO DIGITAL CAMERA
  3. 蒸し 蒸気にあてて芽を蒸します。芽が萎れているため水分量が少ないので蒸気量を減らし、香りを大切にするため蒸す時間を短くしました。
  4. 冷却 蒸した芽を冷やします。
  5. 粗揉
  6. 揉捻
  7. 中揉
  8. 精揉
  9. 乾燥
  10. 仕上げ 軽い葉や粉、大きな葉を除く

飲み方のお話になりますが、一般的な煎茶は旨味(アミノ酸)を引き出すため、湯を冷まし、時間をかけて煎れることで、美味しいお茶を飲むことが出来ます。いっぽうで茶葉がもつ自然で繊細な甘味と香りを引き出すには、熱湯で短時間で煎れ、茶葉がもつ成分を余すことなく絞りきることで美味しいお茶を飲むことが出来るのではないかと考えています。短時間で簡単に煎れる事ができ、飲めば飲むほど体が求めるような緑茶をつくることが出来ればよいなと考えています。

2012年12月 月ヶ瀬健康茶園 岩田文明